cinna85mome2004-05-25


 小泉首相が、22日、金正日総書記と会談しました。この日朝首脳会談の大きなポイントとしては、以下の3点が挙げられると思います。①金総書記が拉致被害者家族8人の帰国に同意、「5人」が即日帰国、②国際機関を通じての食糧25万トン、1000万ドル相当の医薬品の支援、そして、私が最もここでは大事だと思うのは、③小泉首相北朝鮮日朝平壌宣言を履行する限り、経済制裁措置を発動しないと表明したということです。

 「5人」帰ってきたという事実そのものは、喜ぶべきことであり、小泉首相の成果であるでしょうが、彼の訪朝をまるごと評価、肯定することはできません。その理由として、ここでは、3つ目の点について述べたいと思います。

 今回の会談は、両首脳が平壌宣言の履行を確認したということを前提とし、確認しています。とすると、北朝鮮が「宣言」を遵守する限り経済制裁措置を発動しないという小泉首相の明言は、これまでの政府の方針であった「対話と圧力」に矛盾するのではないでしょうか。「圧力」をかけることそのものが良いとか悪いとかそういう話はひとまず置いておくにしても、政府はこれまで外為法を改正して、日本単独で経済制裁を加えられる道筋を法的に用意し、また自民党も特定船舶入港禁止法案を国会に提出しようとしています。毎日新聞によれば、与党は首相のこの発言に実質的な意味はないと理解し、安部晋三幹事長も「北朝鮮が宣言を履行しているかどうかという判断の仕方には幅がある」として、首相発言の中に必ずしも制裁発動の断念を固定化する意志はないと受け止めているようですが、あまりにも首相は不用意に「制裁しない」と言っているように思います。むしろ「履行しなければ発動する」と明言すべきではなかったでしょうか(これが首相の本意なのかもしれませんが、どうせ言うならこちらのほうが良かったのではないでしょうか)。

 私は、経済制裁を発動することには十分に慎重でなければならないと考えています。しかし、「制裁」カードをいつでも切れる用意があるとの態度を常に示すことが、やはり外交の鉄則ではないでしょうか。カードは持っていますよ、でも使いませんよ、と同時に言うことは、「圧力」の道筋をつけたことの「価値」を自ら貶めていることになっているように思います。親北朝鮮の人々に対する配慮なのかもしれませんが、あまりにも外交のリアリズムに反しています。このことはもっと批判されていいと思います。

 参院選をにらんでの、そして首相自らの年金問題のごまかしのために、明らかに前倒しされて行なわれた訪朝に準備不足の感が否めないことに付け加えて、日本の外交の拙速さがここでもまた浮き彫りにされました。残りの10人の拉致被害者の問題も含めて、もっと政府は「真面目に」取り組むべきです。