久野収鶴見俊輔現代日本の思想-その五つの渦-』岩波新書 1956 ISBN:4004120411

非常に高名な書物でよく読まれているように思われます。[五つの渦]とは「日本の観念論」「日本の唯物論」「日本のプラグマティズム」「日本の超国家主義」「日本の実存主義」のことです。

戦前の日本の思想が、西洋や中国由来のさまざまな既存の外来思想の寄せ集めにすぎず、思想的な衝突を建設的に構築することを怠った、そのために一定の強度を保った思想が日本では生まれにくかったということが、よく指摘されますが、そのことが本書でも触れられています。また、理念として思想を顕揚するばかりで、現実的な実践については不十分な対応をとらざるを得ず、総体的に言って、知識人は、帝国主義的拡張に突き進む日本政府に追随する結果に終わってしまったことが、「日本の観念論」や「日本の唯物論」(日本的折衷主義に反発した福本イズムの敗北、福本イズムの現実的実践性の乏しさ)の中で特に指摘されています。

私もまだまだ不勉強で、この程度の認識はおそらく基礎中の基礎でしょう。そのような初学の者には格好の一冊のように思われます。非常にコンパクトにまとめられしかも平易です。