川上弘美『ゆっくりさよならをとなえる (新潮文庫)』

ゆっくりさよならをとなえる (新潮文庫)

自分はよほど食べ物にかんしていじきたない人間なのだろうと、いつも思っている。妙なものに(自分では決して妙とは思っていないのだが)執着を示し、いったん執着したとなると、そればかり食べる。以前には、知人のおばあさんがつけたというたくわんにすっかり執着してしまい、数日間たくわんとご飯だけを食べつづけた。中学生くらいのときに、イカの黒づくりに魅入られてしまい、毎食黒づくりだけを食べつづけた。干し杏にとり憑かれたときには、からだがなんとなくあまずっぱい匂いになるまで、ひたすらにそればかり食べつづけた。(62ページ)


こういう感覚をもっている人に対しては共感を覚える、というか、「信頼」してしまう。理由はよくわからないが。