cinna85mome2004-06-14


 小津安二郎の『小早川家の秋』を見た。この作品は珍しく東宝の製作で、唯一舞台が大阪のものである。造り酒屋の小早川家をめぐる物語で、死、結婚、再婚が主なテーマ。中村雁二郎(初代)演じる大旦那は、19年ぶりに昔の愛人に再会し、経営難の造り酒屋を義理の息子にまかせっきりで,以来何度も京都まで足を運ぶ。亡き母を泣かせたと言って、父の遊びの復活を苦々しく思う長女(新珠美千代)。嫌味を執拗に父に言い続けるいやらしさが笑わせる。次女の司葉子は、結婚を周囲からせかされ今もなお思い続ける人のもとへいくか別の人と結婚するかで戸惑う若き女性として、あまり上手いとは言えないもののみずみずしい演技を披露している。非常に可愛い。原節子は、小早川家の長男に嫁いだが先立たれた未亡人として登場。再婚するかどうかで悩むも明るく、次女の相談役として、年を重ねその笑顔にも柔和さをいっそう増して観客を圧倒する。今回の原節子は、立姿のカットが非常に多かったような気がする。特に、座っているところから立つという動作が画面に入るたびに、その体格の良さが際立つ。

 原節子にお見合いをすっぽかされぼやく森繁久彌、大旦那雁二郎とその孫とのかくれんぼやキャッチボールのシーン(奇妙な投球フォーム!)、特別出演(?)の杉村春子の見舞い、葬式での一幕、など筋にはあまり関係ないエピソードがかなり挟み込まれているが、そのどれもが楽しく、腹を抱えて笑った。大旦那は結局急死するのだが、非常にあっさりと消えていく。死体を焼き、煙突からもくもくと出る煙、それを皆が立ち上がって眺める、悲しみはここにしずしずと深まっていく。自宅から斎場まで小早川家が橋の上を歩く有名なシーンはやはり圧巻。悩みに身を投じていた二人もきっぱりと心を決める。新しい日々がまた小早川家に始まる。